Mastering Myself

VCとスタートアップ

リアル・ストーリー・オブ・ベンチャー・キャピタリストを読んで(その2)

「リアル・ストーリー・オブ・ベンチャー・キャピタリストを読んで」の続きです。

decentralized.hatenablog.jp

 

次に来るバス

一時的なブームを、「流行投資」と考えている。(中略)IVPもこの「群れ」で投資したいという欲望と常に闘っている。だが何度か誘惑に負けて、「ブーム」企業に投資してしまったことがある。IVPのパートナーは「波」に乗った企業に投資しようと心がけている。顧客の需要が引き起こした波である。

この10年の間に私たちの強い関心を引いた「流行」産業の一つがペン型コンピューターである。(中略)なぜ、ペン型コンピュータはうまくいかなかったのか。この「ブーム」に投資しようと決めた時、ベンチャーキャピタル業界は二つの大切な原則を無視してしまったのである。第一に、技術的に実現可能な商品であること。第二に、生産段階の費用効率が良く、顧客が提示された価格で購入してくれることが確実な商品であること。(略)ここでベンチャーキャピタリストは三番目の掟を破ってしまう。顧客の声に耳を傾けよ、という掟である。ペン型コンピュータはまったく新しいコンセプトを基礎とするまったく新しい産業だった。参考になる「顧客の声」などない。しかし、後になって顧客の声が聞こえ始めてくると、この時点で生産されていた商品の価格に顧客は満足していないという事実が明らかになってくる。それでもベンチャーキャピタリストは投資を続けたのである。

ここから、どんな教訓が得られるだろう?一つの業界に投資家と起業家たちが群れをなして集まっていたら、まず観察すること。そして、技術と顧客の反応の両面から、市場の可能性を冷静に分析しなければならない。両足をそろえて飛び込んでしまう前に。 

 かなり困難だろうなぁと思いました。群れをなして集まっていたら、自分には気づかない「なにか」があるのではないかと思ってしまうし、とりあえず足突っ込んでおくかとなってしまいそう。「両足をそろえて飛び込まない」ということはせめて徹底しておく必要がありそう。

最大の失敗

悪い結果を招くのではないかと神経質になりすぎて、絶好の投資機会を逃してしまったのである。ベンチャーキャピタルでは、悪い投資を決めるより良い機会を失うほうが辛い。

この関連の話でいうと、East Venturesの松山太河さんの「投資の失敗について」というポストが面白い。

<投資の失敗について>

僕のような小型のアーリーステージの投資組合にとっての投資の損失というのは、そもそもの掛け金が比較的小さいので、全損であっても影響は小さい。
最大の投資の失敗というのは、目に見えない「投資すべきだったのに投資しなかった」機会損失にあるように思える。

代表的な失敗事例をあげておきます。

・グリー初期にの元ネットエイジで一緒に働いていた山岸氏(現副社長)から相談を受けた際に、時価総額が×億で高いな~と思った。→いまでは東証一部の時価総額数千億の日本を代表する会社に。

・当時まぐまぐでアルバイトしていた佐野君が料理サイト作ってて、当時僕は、「趣味のサイトか~ ひまなのかな~」と思っていた。→月間UU2000万人のクックパッド

アクセンチュア時代の先輩吉松さんに喫茶店によびだされて、当時まだ大学生だった田中良和氏と一緒に話を聞いて、化粧品のメルマガを出すんだ、と説明された時には「吉松さん!!オトコなのに!!!」と思って、どうやって資金の相談につながらないようにするか、懸命に話をそらしていた。→@コスメ大成功 一部上場おめでとうございます!(後略)

松山 太河 - <投資の失敗について>... | Facebook

これほど凄い投資家の方でもこれだけの失敗を経験されているのだから、ベンチャー投資というのがいかに難しいのか分かる。。。(これだけの経験がある&できるのも凄い)。そして、序盤に書かれているように「最大の投資の失敗というのは、目に見えない「投資すべきだったのに投資しなかった」機会損失にあるように思える」と同じことが書かれている。非常に難しい判断を要するのだろうが、これだけ同じことが言われるということはトップレベルに重要でなんだろう。

小さく始める

多額の資金を投じ、会社と経営陣に「かかれ」の号令を出す前に、製品やサービスの概念が市場で機能するかどうか確認すること。少ない経営陣と資金でも、かなりのことができるものだ。そのためには、優秀なマーケティング担当者を採用すること。商品を開発し、発売してみてはじめてポイントをはずしていたと気づき、トラブルに見舞われる企業は多い。初期の段階で資金を無駄に使ってしまうと、不幸な結果を招くことになる。

 これも面白くて素晴らしい学び満載のnoteがある。シリコンバレーでスタートアップに挑戦しているめちゃカッコいい日本人の方の経験談

創業初期、あるいは創業前、スタートアップとしてやりたいアイデアがあるという状況で、まず最初に達成すべき目標は「このアイデアはユーザーにとって価値があるのか?」を確かめるということです。スタートアップの言葉で言うと「価値仮説の検証」です。

価値仮説を検証することではなく、ベータ版を完成させることが目標になっていました。その上、ベータ版をテストユーザーに使ってもらうと反応がよくありませんでした。4ヶ月ぐらいかかって開発したものがユーザーにとって価値のあるものではなかったと判明したんですね。価値があるかどうかを確かめるだけなら1ヶ月で十分だったと振り返ってみて思いました。

どうしても必要な時だけコードを書く

特にエンジニアなら、「とりあえず作ってみよう」と早々と手を動かしてしまいがちだと思うのですが、今取り組んでいることは、価値仮説を検証するために本当に最短の方法なのか?と常に問い続ける必要があると感じました。

しかし、これでは問いとして抽象的すぎて実行できるかわからなかったので、アイデアを検証している段階では「コードは書くな!絶対にだ!」という自分ルールを設けることにしました。フリじゃないです。

先人の例を見てみると、Product HuntのライアンはメルマガとTypeformとStripe、Dropboxのドリューは動画、Bufferのジョエルはランディングページのみで最初のアイデアを検証しました。

Uberのグロース担当で、現在はアンドリーセン・ホロウィッツのパートナーのアンドリュー・チェンは、「まずはGoogle Keyword Toolでニーズを確かめろ」と言っています。

コードを書くというのは、アイデアの検証手段として最もコストがかかる行為の1つで、どうしても必要という場合以外はできるだけ既存のツールを活用すべきだと思いました。

note.mu

とくにエンジニアの方はコードを書いてしまうというのと、エンジニアでなくてもとりあえず形にするためにプログラミングを学ぶか、エンジニアを引っ張ってくるというのはよくある話なのかもしれない(自分も似た発想でプログラムを学んだ)。これだけスタートアップの本場にどっぷり浸かっている方でも犯すミスなのだから。

価値や概念、アイディアを検証するという目的を最短で達成するにはどうするかを考えて、回すというのが大事なのかな。(言うは易く行うは難しだと思うので偉そうに書きたくはないのですが。。。)

何が重要か

頭がくらくらするほど変化の早いスタートアップ企業にいる起業家は、何が重要かということをすぐに見失ってしまう。(中略)つまるところ、いちばん大事なのは顧客である。しかも、顧客がどう言うかだけではなく、どうしたら買ってくれるのか、どんな物になら顧客が喜んでお金を払ってくれるのかが大切なのだ。よく観察し、耳を傾けること。そしてそれを基礎として、必要ならば変化をも辞さないこと。その意欲が大切なのだ。あなたを成功に導いてくれるのは顧客である。そして、成功したかどうかが決まるのはスタートではない。ゴールなのである。

ポール・グレアムも「顧客が欲しがるものを作れ」と言っているように、スタートアップを味方し、正当化してくれるのは、顧客からの支持なんだろう。顧客からの支持があれば、投資家も大企業も耳を傾けざるを得ない。逆に言えば、ベンチャーキャピタリストは起業家が顧客に専念できるように、邪魔しないこと、手助けできるところは手助けすることなのかな。株式や権利、事業をめぐって対立してしまうことほど両者にとってもったいないことはないのだと学んだ。