Mastering Myself

VCとスタートアップ

Y Combinator ポール・グレアムの個人的良エッセイまとめ

Y Combinatorのポール・グレアムが書いてるエッセイは数多く和訳されています。さらに、その日本語訳をまとめているサイトがあります。

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ありがたいものの、膨大な数があります。どれも非常に示唆に富むものばかりですが、ジャンルがスタートアップだけでなくあまりに量が多いので、スタートアップに絞った上にその中でも選りすぐりのエッセイを独断と偏見でピックアップしてこの記事にまとめました。本文からの抜粋やひとことメモ的な感想も付けておきました。

 

スタートアップの始め方

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成功するスタートアップを作るには3つのことが必要になる。優れた人たちと始めること、顧客が実際に欲しがるものを作ること、可能な限りわずかの金しか使わないこと。失敗するスタートアップのほとんどは、これらのうちのどれかをやり損ねたために失敗している。

スタートアップを始めるときにすごいアイデアは必要ない。スタートアップが収入を得るのは、人々に現在あるのより優れたテクノロジーを提供することによってだ。しかし人々が現在手にしているものは時に相当ひどいものであり、それを改善するのにとりわけすごいことが必要になるわけではない。

優れた人というときに意味しているのは何か? 私が自分のスタートアップを通して学んだ最高のトリックの1つは、誰かを雇うか決めるための方法だ。 「その人を動物にたとえることはできるか?」 これは別な言語に翻訳するのは難しいだろうと思うが、アメリカにいる人ならみんな私の言っている意味がわかると思う。これはその人が自分の仕事を度が過ぎて真剣にやるということだ。自分の仕事をあまりにうまくやり、プロフェッショナルを通り越して強迫的なほどになるということだ。

未来のスタートアップは彼らの誤りから学ぶべきだ。タバコやウォッカや洗剤のような差別化できない製品のマーケットにいるのでもない限り、ブランドの広告に大金を費やすというのは何かが壊れていることの徴なのだ。そしてWebビジネスにおいては、そんなに差別化できないようなものはほとんどない。

テクノロジーの世界では、常にローエンドがハイエンドを食っている。安価な製品をより強力にするほうが、強力な製品を安くするよりも簡単なのだ。だから安価でシンプルというところから始めた製品は徐々に強力なものへと成長していき、水が部屋に満ちるように、 「ハイエンド」の製品を天井の方へと押し込めることになる。 

 VCはピラミッドを形成している。頂点にはセコイアやクライナー・パーキンスのような有名所がいるが、その下にはあなたが聞いたこともないようなたくさんのVCがいる。彼らに共通しているのは、彼らからの1ドルは1ドルの価値だということだ。多くのVCは金を提供するだけでなく、コネとアドバイスを提供すると言うだろう。あなたが話している相手が ビノド・コースラやジョン・ドーアやマイク・モーリツなら、それは本当だ。しかしそういったコネやアドバイスはすごく高くつくかもしれない。そして食物連鎖を下っていくと、VCは急速にできが悪くなる。トップから何歩か下りるだけで、Wiredを読んで業界用語を覚えたような銀行家を相手にすることになる。

 有名エッセイ。成功するスタートアップの条件「欲しがるものを作る」「優れた人と始める」「わずかな金しか使わない」にVCがサポートすることができるとすれば、「優れた人と始める」という点なのかなと思った。

ベンチャーキャピタルのおぞましさに関する統一理論

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VCファンドの問題は本質的なものだ。投資信託やヘッジ・ファンドの管理者と同様、ベンチャー・キャピタリストは管理の総額に比例して給料を貰う。つまり年間およそ2%の管理費と収益の一部だ。したがってベンチャー・キャピタリストは、たとえば数億ドルといった巨額な投資を望む。

ベンチャー・キャピタリストの振る舞いの痕跡をすべて足しあわせると、結果として出てくる性格はとても魅力的なものとは言いがたい。実際、彼らは臆病、貪欲、卑劣、威圧を繰り返す古典的な悪党だ。

私は、好意を持てるベンチャー・キャピタリストにも少しは出会えた。マイク・モリッツは良いベンチャー・キャピタリストのようだ。しかも彼にはほとんどのベンチャー・キャピタリストにはないユーモアのセンスがある。ジョン・デルの本を読む限りでは、彼もまたよいベンチャー・キャピタリストのようで、ほとんどハッカーに近い。そして彼らはVCファンドとして最高の仕事をしている。また私の理論は、なぜ彼らが他のベンチャー・キャピタリストとは違うのかを説明する。最も人気のある子供はオタクをいじめる必要がないのと同じで、最高のベンチャー・キャピタリストはベンチャー・キャピタリストっぽく行動する必要がないからだ。彼らは最高の契約を選べる。したがって彼らはそれほど執拗かつ卑劣である必要がないし、Googleのように巨額な投資を必要としても最終的には利益を得ることができる、とびきりの会社を選ぶことができる。

 ベンチャーキャピタリストの負の部分に焦点を当てたエッセイ。キャピタリストが悪にみなされるのはキャピタリスト自身に問題があるというより、構造的な問題という気がする。そして、その構造にまんまハマるとさらに負のスパイラルに陥るように思った。一方、キャピタリストらしく振る舞わなければ、その負のスパイラルにはハマらないのかな。難しそう。。。

ベンチャー・キャピタルの苦境 

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ベンチャー・キャピタル・ファンドは、4方向から締めつけられることになるだろう。今でさえ、バブル末期に調達したものの、まだ投資に回していないあり余った資金のせいで、売り手市場で立ち往生してしまっている。このこと自体は、まだ致命的な問題ではない。VCの世界ではよくある問題が、単に極端になっただけにすぎない。つまり、投資資金は有り余っているのに、肝心の投資対象の方がずっと少ないという状況だ。

ベンチャーの起業するコストがとても安上がりになっているため、ますます必要な資金の額は減っている。原因は4つで、ソフトウェアを無料にするオープン・ソース、ハードウェアを幾何級数的にタダに近づけるムーアの法則、良いものを無料で広めるウェブ、開発費をずっと安くする良い言語だ。

卸売りで買えると買収者たちが気づきはじめたことだ。なぜ買収者は、VCがベンチャーの値段をつり上げるのを待つ必要があるのだろうか? VCが加えるほとんどのものは、買収者にはどうみても必要ない。買収者にはもうブランド認知と人事部がある。彼らが本当に求めているのはソフトウェアと開発者であり、それは凝縮されたソフトウェアと開発者という初期のベンチャーの状態そのものだ。例によってGoogleはこのことにいちはやく気づいたようだ。「ベンチャーを早めに私たちに持ってきてください」とGoogleの演説者は起業スクールで言った。Googleはその件に関して非常に明確だ。GoogleはシリーズAラウンドに出ようとしている時点のベンチャーを買収することを好むのだ。(シリーズAラウンドは、現実のVCが投資する第一ラウンドであり、たいてい起業した最初の年に行われる)それは賢い戦略であり、他の技術系の大企業も真似したがっていることは確実だ。自分たちのランチを今以上にグーグルに食べられたいと思ってるのでなければの話だが。

シリーズAラウンドのラウンド中に、起業家に一部、株を現金化させるのだ。VCがベンチャーに投資するとき、VCが得る株はすべて新規に発行され、資金はすべて起業に向かう。起業家からある程度の株を直接、買ってもいいんじゃないか。

これもVCの苦しい点を指摘するエッセイ。スタートアップをするためのコストが安くなっていることが、VCを苦しくさせているのは納得。ソフトウェア企業に限るとは思うが。おもしろいのが、Googleのような事業会社がシリーズAラウンドで買収したがっていること、していることで、VCが苦しんでること。これは日本でも起きそう。事実DMMは早い段階で買収し始めているし、起業家にとってもそれは良い選択だろう。

そしてそれに対するVC側の解決策として、新規発行株を買い取るのではなく起業家の株を買い取るという発想もおもしろい。確かに合理的に考えれば、起業家はある程度の金銭を確保できるし、さらに心置きなく大きな挑戦に挑める。問題はハングリーさが失われる可能性がどの程度かということだと思うが、IPOした起業家の野心が失われてなかったりするように、想像するよりも悪影響は少なそう。また、金銭を確保といっても何億も手に入るわけでないし、成功しているわけではないので、挑戦を続けざるを得ない側面はある。そして事業会社に入って企業のコントロールに干渉されるより、独立性を保ったまま経営できるので、起業家にとっても良いだろう。

おまけだが、プログラミング言語の発展がコスト安にしているのはなにげに初めて気付いた。サーバー代が安くなっているのは目に行くが。言われてみれば、Cで書くより、RubyPythonで書くほうが生産性が高いし、Railsなどのフレームワークを使えば、僕ひとりでも簡単なアプリを数ヶ月で作れてしまうので、人を雇うコストが著しく低下しているという意味では、スタートアップのコスト安に最も貢献しているのはプログラミング言語の発達なのかもしれない。おもしろい。

スタートアップを殺す18の誤り

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スタートアップを始めたいなら、ハックしているだけというわけにはいかないという事実に目を向ける必要がある。少なくとも1人のハッカーが、ビジネス関係のことをするのに時間をさく必要がある。

成功し得たスタートアップのほとんどは、創業者がすべての努力をそこに注ぎ込まなかったために失敗したことになる。これは私が世の中で目にしていることと確かに一致している。多くのスタートアップは人々の望むものを作らないために失敗しており、そして多くのスタートアップがそれを作らない理由は、彼らが十分熱心に努力していないためなのだ。

超有名っぽい。引用はこれだけ。本文の18個を読んだほうがよい。

新種のベンチャー・アニマル

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起業直後は、ベンチャーにはわからないことがいっぱいあるだけではなく、内容も後に持つ疑問とは異なる。もっと後になると、質問は取引、雇用、組織についての質問になる。起業直後の段階では、技術やデザインに関する質問が多い。何を作ればいいのだろう? それが最初に答える必要がある問題だ。だから私たちの標語は「人々が求めるものを作れ」なのだ。これは会社にとって常に良いことだが、起業直後ではとくに重要だ、というのも、他のあらゆる質問の領域を定めるからだ。誰を雇い、どれたけ増資し、どう売り込むか・・・これらは皆、何を作るかによる。

初期の問題は技術とデザインに関するものが非常に多いので、私たちと同じ仕事をするなら、おそらくハッカーである必要がある。技術を知っているベンチャー・キャピタルは何人かいるが、今でもプログラムを書いているベンチャー・キャピタルを私は知らない。ベンチャー・キャピタルの専門知識はビジネス面のものであり、それは第1ラウンドと(運がよければ)IPOの間で必要となる専門知識なので、それはそれでいい。  

私たちはバイオテクノロジーベンチャーにはまったく資金を供給していない。まだ高価だからだ。しかし技術の進歩によって、ウェブのベンチャーは、150万円で起業可能なほど安くなった。最低でも飛び立てるなら、だが。 

だから本当に起きたのは、生態学的なニッチができ、Y Combinatorはそこに移住した新種の動物ということだ。私たちはベンチャー・キャピタル・ファンドの代替物ではない。新たなニッチに適応したのだ。そして私たちのいる領域は、ベンチャー・キャピタルのいる領域とはぜんぜん違う。扱う問題が違うだけではない。ビジネスの構造そのものが違う。ベンチャー・キャピタルはゼロサム・ゲームをしている。彼らは皆、限られた数の投資先を求めて争っている。それで彼らの行動の多くの説明がつく。私たちの標準的なやり方は、ハッカーに就職させるかわりに自分でベンチャーを起業するよう励ますことで、新たな投資先を作り出すことだ。私たちはベンチャー・キャピタルとではなく、企業の採用担当者と競争している。

この現象は起きるべくして起きた。ほとんどの業界は発展するにつれ、より専門化・細分化する。ベンチャー業界の歴史はたかだか数十年で、もちろんそういった業界の1つだ。現在のような業態のベンチャー・ビジネスはせいぜい40年程度だ。まだ発展すると考えるのが自然だ。 

Y combinatorがどういうVCなのか(VCという定義に当てはまらないかもしれないが)が分かる内容。本当に起業家に寄り添ったインキュベータだということ、そしてシード期のソフトウェアスタートアップにとって最も重要なのは、資金ではなく技術、デザイン面での支援ということが分かる。さらにY combinatorが従来のVCのようなゼロサムゲームなソーシングではなく、ハッカーを起業させることで投資先を生み出しているのはおもしろい。そう考えると、多少はプログラムが書ける自分が取れるポジションはシード期にこそ効いてくるのかもしれないと思ったし、たとえVCになってもプログラムを書き続けることはハッカーな起業家を理解し、支援する意味で一定の価値がある気がした。

Y Combinatorを始めた理由

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Y Combinatorを始めたほんとうの理由は、たぶん ハッカー[訳註2]だけが わかることだと思う。それが、素晴らしいハックに思えたから始めたんだ。 会社を始めようと思えば始められる、賢い人々は何千人もいて、 正しい場所にちょっとした力をかけてやれば、 それ無しには存在しなかったたくさんのベンチャーを世界に送り出すことが できるんじゃないか。

ある意味でこれは高潔なことと言えるかもしれない。 私はベンチャーが良いことだと思っているからだ。 けれども本音のところでは、私たちを衝き動かしていたのは、 どんなハッカーでも持つあの後ろめたい欲望、 複雑な機械を前にして、ちょっといじってやればずっとうまく動くのにと 気づいた時のあの衝動だった。 今回の場合、複雑な機械とは世界経済で、幸いなことにそれはオープンソースだったんだ。

感動した。僕がVCに興味を持った理由はもっとチンケなものだけど、最近a16zやYコンについて知るにつれて、VCという事業そのものに関心を持ち始めた。USでもまだまだ歴史が浅く、様々なモデルが考えられるのであれば、日本なんてハックし放題なのではないだろうか。属人的な仕事っぽいVCだし、その要素は多いんだろうけど、仕組みやモデルを工夫すればもっと事業的になるんじゃないかと思って、ワクワクする。

ブラック・スワン農場

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ベンチャー企業への投資を職業にするとき、理解すべき最も重要な2つのことは、 (1) 事実上すべてのリターンは、大成功するごくわずかな企業だけから来る、ということと、(2) 最高のアイデアは、最初はダメなアイデアに見える、ということだ。

ピーター・ティールがはじめてYCで話した時、彼はこの状況を完璧に説明するベン図を描いた。彼は2つの円を交差させて描き、一方には「悪いアイデアに見える」、もう一方には「よいアイデア」と書いた。交差している部分が、ベンチャーの起業に最適な箇所だ。 

スケールしないことをしよう

postd.cc

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創業者が起業時にしなければならない最も一般的な「スケールしないこと」は、自分たちでユーザーを獲得していくことです。これはほとんどのスタートアップに言えることです。ユーザーが寄ってくるのを待っていてはいけません。自分たちから獲得しに行くのです。

おまけ:ポール・グレアムおすすめ本 

らいおんの隠れ家 : ポール・グレアム「起業のFAQ」 - livedoor Blog(ブログ)ここにある本をまとめた。

超マシン誕生―コンピュータ野郎たちの540日 (1982年)

超マシン誕生―コンピュータ野郎たちの540日 (1982年)

 
フォード―その栄光と悲劇 (1968年)

フォード―その栄光と悲劇 (1968年)

 
人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

 
フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)