Crypto系ベンチャーキャピタルFabric Venturesレポートをまとめてみた【Part 1】
先日Crypto領域に投資するベンチャーキャピタルのFabric Venturesが2018年1月〜9月までの9ヶ月間のトークンマーケットに関する状況をレポートにまとめていたので、トピックごとに日本語化しながら軽く追ってみる。一部省略したところはあるが、ほぼ全てカバーしたはず。訳に怪しいところがあるのは許して下さい…
参照や画像元: https://www.fabric.vc/report
基本情報
トークンセールの基本的な状況。
月ごと調達額推移
2017年のトークンセールの調達総額は$5.6 billionだったが、2018年は1Qだけで$7 billionの調達額になった。しかしその後の2Q, 3Qは調達額が激減して、最終的に2018年の1Q〜3Qの調達総額は$12.3 billionに。
また、981のトークンセールのうち900個は2017年に開始したもの。そして981のトークンセールのうち58%のトークンセールが失敗、もしくはrefund(目標に届かず返金)。残念だが質の低いトークンセールは増えてしまい、2017年は48%だった失敗比率が2018年は58%に。
総調達額の47%を上位10個のトークンセールが占める
総調達額の47%を1%のトークンセールが占める。特に調達額の約40%をEOSとTelegramが占める。
セクター別の状況
2017年の最も大きい調達額10個のトークンセールのうち調達額の約32%をインフラ系のプロジェクトが占めた。2018年のプロジェクトでは最も大きいトークンセール10個中5個のプロジェクトがインフラ系だった。ICOのうち40.4%をインフラ系が占めている。
ひとこと
インフラが多い。考えてみれば当たり前だが、もっと少ないと思ってたので良かった。でもDAppにこんなに投資が集まってるのは、時期尚早感がある。しかもこの場合のインフラって、おそらくアプリ層以外の合算な気がするから、70%くらいあっても良さそうだし、それくらい投資集まるほうが健全に思えてしまう。
地域別の状況
各国の規制状況&ICO状況
香港
- Action: トークンが香港証券法の対象になることがあるという複数の警告を出したことはあるものの、明確なガイドラインはまだ公開されていない。
- ICOへの対応: 許可、慎重な規制
- 2018年ICO調達額: $272M
シンガポール
- Action: シンガポール政府はcryptocurrencyが"capital market products"にあたるというのと、証券法に基づく規制の対象であると発表。security tokenを構築するICO実施者にライセンスの取得を義務付けた。
- ICOへの対応: 許可、厳しい規制
- 2018年ICO調達額: $658M
マルタ
- Action: "Blockchain Island"は3つのcryptocurrencyとblockchainの関連法案を2018年6月に可決し、分散台帳技術の規制に対する枠組みを承認した初めての国になった。マルタの透明性のあるアプローチはBinance, OKex, ZB.com, and Bitbayといった主要な取引所を惹きつけた。
- ICOへの対応: 許可、透明かつ前向きな規制
- 2018年ICO調達額: £105M(約$137M)
ジブラルタル
- Action: 政府は2018年1月に分散台帳技術の規制に対する枠組みの作成とともに、ICOに対する法的な枠組みの立ち上げとトークンセールへの適切な規制監督を提供する初の国になる計画に着手。
- ICOへの対応: 許可、透明かつ前向きな規制
- 2018年ICO調達額: $157M
ツーク(スイス)
- Action: payment, utility, asset tokensを差別化する前向きなガイドラインの制定をアナウンスしたことによって、"crypto nation"になった。
- ICOへの対応: 許可、系統的で前向きな方向性
- 2018年ICO調達額: $556M
イギリス
- Action: 暗号資産の特別チームをイングランド銀行、FCAとともに立ち上げてCryptoプロジェクトの世界的中心になろうとしている。
- ICOへの対応: まだ規制はない。対応を検討中
- 2018年ICO調達額: $490M
フランス
- Action: フランスはブロックチェーン革命を見逃さないよう宣言し、"PACTE"という規制プロジェクトを立ち上げた。新しい規制スキームが議会に承認されれば、投資家に対して透明的であったり、ちゃんとしている(誠実なプロジェクトである)ことを証明するAMF(フランスの金融市場規制当局)ライセンスを作るためのルールの制定とトークンとICOに関する法的な定義が導入されることになる。
- ICOへの対応: まだ規制はない。新たな立法を作成中
- 2018年ICO調達額: $63M
ルーマニア
- Action: ルーマニアは規制、税制、会計、マネーロンダリング対策、テロ資金対策をカバーする包括的なICOガイドラインを発行した。新たな規制は明確にsecurityとutilityトークンを区別し、すでに施行されている法律に対応するガイドラインを提供している。
- ICOへの対応: 許可。透明かつ前向きな対応
- 2018年ICO調達額: $271M
ひとこと
あぁ、世界にはこんなにも前向きに規制が進んでいる国もあるのかというお気持ち…
ヨーロッパにおける有望プロジェクトの形成
規制をつくることによってCryptoプロジェクトを惹きつけようとする国が増加する一方で、創業チームやデベロッパーたちの多くは引き続きヨーロッパを拠点にしている。ロンドン、ツーク、ベルリン、タリンは有望なブロックチェーン人材とともにヨーロッパをリードする一握りの場所。これらの場所はトップレベルのフィンテックスタートアップを惹きつけてきた中心地であり、特に驚きはない。
各都市の状況
ロンドン
- プロジェクト: Colony, Ntropy, Flying Carpet, Verisart, Everledger, Provenance, Electron, Blockchain.com, Elliptic
- 人材: Vinay Gupta, Pamir Gelenbe, Richard Muirhead, Ben Livshits, Jack du Rose, Stephen Tual, Jeremy Millar, Azeem Azhar, Vlad Zamfir
- ファンド: Fabric Ventures, Libertus Capital, Outlier Ventures, KR1
- ハブ: London Blockchain Labs, Consensys (まもなくオープン), Fabric House (まもなくオープン)
- 企業、団体: Consensys, Coinsilium
- イベント、メディア: On Deck, CogX, Coinscrum, Christie’s Art + Tech Summit, Blockchain Live
サンフランシスコ
- プロジェクト: Ripple, Coinbase, 0x, Civic, Dfinity, Stellar, Litecoin, Orchid, Keep Network, Kraken
- 人材: Naval Ravikant, Olaf Carlson-Wee, Brian Armstrong, Fred Ehrsam, Matt Huang, Kathleen Breitman, Juan Benet, Balaji Srinivasan, Jesse Powell, Stefan Thomas, Steven Waterhouse
- ファンド: Metastable, a16z crypto, Polychain, 1Confirmation, Blockchain Capital, Pantera Capital, Paradigm
- ハブ: Node
- 企業、団体: Blockchain at Berkeley
- イベント、メディア: CESC, ETH San Francisco, TechCrunch Disrupt, Global Blockchain Forum
ニューヨーク
- プロジェクト: Blockstack, Basis, R3, LO3’s Exergy, Messari
- 人材: Albert Wenger, Barry Silbert, Joseph Lubin, Laura Shin, Chris Burniske, Jake Brukhman, Amber Baldet, Mike Novogratz, Karl Floersch, Ryan Selkis, Erik Voorhees
- ファンド: Digital Currency Group, Boost VC, Union Square Ventures, Galaxy Digital, Coinfund
- ハブ: Crypto NYC, NYC Blockchain Resource Center
- 企業、団体: Coindesk, Cointelegraph, Laura Shin’s Unchained and Unconfirmed
- イベント、メディア: Blockchain Week NYC, Ethereal Summit, F0256, Consensus, Token Summit, The Block
ベルリン
- プロジェクト: Gnosis, Ocean Protocol, Parity Technologies, Golem, Slock.it, Raiden, Lisk, Cosmos, Centrifuge, Energy Web Foundation
- 人材: Carl Bennetts, Jutta Steiner, Gavin Wood, Trent McConaghy, Maria Paula Fernandez, Stefan George, Brian Fabian Crain
- ファンド: BlueYard, Neufund, 1kx
- ハブ: FullNode, Factory Berlin
- 企業、団体: Web 3 Foundation, Grid Singularity, Ethereum Foundation
- イベント、メディア: Web 3 Summit, EthBerlin, Dezentral, Blockstack Berlin, Blueyard events, Tech Open Air, Epicenter, Zero Knowledge Podcast
ひとこと
知ってる名前もあるけど、正直わけわからん名前が踊っててやべぇ。。。という。ヨーロッパがやたら叫ばれるからサンフランシスコとか微妙なのかと思ってたけど、Rippleもcoinbaseも0xもDfinityもLitecoin等ちゃんと豊富で、さすが。ベルリンはコレ見る限りEthereum系に強い感じかな
資金調達トレンド
プライベートラウンドとプレセールがトレンド。2018年にTelegramが行った$1.7 billionのプライベートラウンドとプレセールがほとんどを占めたトークンセールはトレンドを象徴する大きな一例。
プライベートラウンドの特徴
- タイミング: パブリックセールの前
- サイズ: 規模は大きいが、幅はある。(数千ドル〜数千万ドルの幅)
- 適格投資家 or KYC必要性: KYCと適格投資家であることが必須
- 割引やボーナス: トークン購入者はたいてい割引された交換レートが適用される
- ベスティングやロックアップ: トークンは合意した時期を超えてから手放せる
プライベートラウンドは目新しくないが、2018年のデータが示すのは平均的なトークンセールにとってプライベートラウンドは重要な役割を担っているということ。
- すべてのトークンセールのうち85%がプライベートラウンドを実施
- プライベートラウンドを利用したプロジェクトはプライベートラウンドで調達額の3分の2を調達
- プライベートラウンドに参加した投資家は平均的に34%の割引やボーナスを受け取った
このようにプライベートラウンドへと移行していく背景には多くの要因がある
- 規制: いくつかのトークンセールは証券規制が保留中のため排他的に適格投資家に販売している
- プロダクトづくりに専念: だんだんとプロジェクトがパブリックセールよりも前に重要な開発マイルストーンに取り組んだりプロダクトのテストに尽力するようになっている
- 機関投資家やVC: プロジェクトは強力な評判を確保したり、専門的なファンドから運営上の支援や戦略的なサポートを受けられる適切なパートナーであるVCからの資金調達をすることに熱心になっている
- 暗号通貨のボラティリティ: 暗号通貨のボラティリティによって、パブリックセールの開始予定前にフィアット建ての資金調達のマイルストーンに突き当たってしまう。(フィアット建ての価格のボラティリティが大きすぎて、当初の資金計画と調達額の予定が狂うみたいなニュアンスだと解釈)
VCの状況
7年間でブロックチェーンプロジェクトへのVC投資は継続的に増えている。
最も大きい10個のVCラウンド
ひとこと
ICOが上述した流れになっていけば利点も薄れるので、規制も定まってない&資金以外のバックアップも得られるVCから調達するほうが合理的。ファンドも増えてるしVC調達は今後もしばらく増えそう。
Airdropsの状況
トークンプロジェクトにおいて人気を獲得したもう1つのトークンを分配する仕組みとして選別したウォレットのネットワークに無料でトークンを配るAirdropがある。Airdropの背景にある経済的な裏付けはユーザーベースを拡大し、ローンチ前にネットワークを強化することがある。2018年のデータによると、販売が完了した3分の1がトークンセールに加えて、Airdropを公表したというもの。
トークン分配の幅
トークンの集中化はリスクや価値の観点から焦点を当てた引き続き主要なトピック。
トークンアナリストによると、2017年からの20の人気のICOはトークンを配分したウォレットがかなり集中化していることを発見した。平均的には上位10個のウォレットがトークンの60%を保持しており、時価総額の50%を占めている。それらのウォレットの持ち主はたいてい、プロジェクトチームか取引所かプレセールの投資家のいずれか。この割合はBitcoinの6%やEthereumの11%という上位10のウォレットが保有している割合に比べて高い。
ひとこと
ガバナンスの面でのDecentralizedを測る指標として使えるのかな。ガバナンスの分散性とプロジェクトの成否の相関データ欲しいと思った。
GitHubの活動状況
GitHubリポジトリ作成から資金調達までの期間。分析した半分以上のプロジェクトがリポジトリ作成からちょうど3ヶ月か3ヶ月以下でトークンセールを実施していることがわかる。
リポジトリ作成からトークンセールまでの期間とICO成功率
また、当たり前だが分析によると、成功したICOプロジェクトは開発者がコードにどれほどの時間を費やしたかの量にかなり依存することがわかった。そしてそれは通常GitHubのリポジトリの活動に反映される。従ってより成熟したGitHubのリポジトリを持つプロジェクトは資金調達する際に、より成功しやすい。
リポジトリ作成から3ヶ月以下で資金調達を実施したプロジェクトは74%失敗している。これらのプロジェクトの多くは投資家に見せるためのコードを用意できなかったし、初期投資家のデューデリジェンスも上手くいかなかった。
コントリビューターの数とICOの割合
同様に、コントリビューターが少ないICOプロジェクトもかなり失敗している。すべてのICOのうち76%のICOが抱えるコントリビューターは1〜3人。失敗したICOに限るとこの割合は89%まで上昇する。
資金調達開始前と後のGitHubのCommit活動
資金調達開始前から後にかけての週ごとのICOのリポジトリの活動は資金調達開始日にかけて明らかに活発になることがわかった。成功したICOはトークンセール開始日前の2〜4週間にコードのcommitが急増する。
失敗したICOは資金調達の期間に顕著にコードのcommitが減少しており、資金やプロジェクトへの関心が不足していることを示す。なお失敗したのにプロジェクトの開発活動が続いているのは資金が不足しているのに、プロジェクトの実行を選択している開発者の判断によるもの。
所感
以上がレポートまとめのPart1。なかなか疲れたが、学びもあった。特に各国の規制状況はこういう機会でないと一覧して比較できないし、規制の整理が進んでいる国すなわちこれからクリプトの中心地になるであろう地域を把握できたのは良かった。また「インフラ系への投資をもっとするべき」というのを聞いていたから、少ないものだと思い込んでいたインフラ系への投資がデータとして多かったのは意外だった。(質はともかくとして)
さらに、トークン保有の集中化が発生していることやGitHubの活動状況とプロジェクトの関係を数字として見ることはなかったので興味深かったし、プロジェクトを見るときに新たな視点が加わった。
時間がかかるので結構つらいが、Part2もやるつもりですのでそちらもよろしくお願いします。